キコニア: 作中の「多重人格」について
※2019/10/04 07th expansionより発売の『キコニアのなく頃に(Phase1)』のネタバレを含みます。ご注意ください※
キコニアは未来を舞台にしたSFであるため「こんな技術はあり得ない」という指摘はナンセンスとなってしまう。しかし、技術的進歩の速度に比べて生物学的進化というのは数千年単位で緩やかに生じるものである。ゆえに「現代の我々の知識と整合しない生物学的な現象はない(あるいは技術によって人為的に生じさせられている)」と考えるのが自然である。Phase2で新たな情報が明かされるまで、本ブログではそういった観点のもとに考察を行う。
キコニアにおいて非常に印象的な描写に、「ガントレットナイトのうち多重人格者の割合が非常に高い」という点がある。本記事では、「作中内の多重人格という現象と現実の多重人格の違い」について取り上げる。
作中内では、多重人格についてジェイデンがこのような説明をする場面がある。
「一般的には不便に感じられるがガントレットナイトという職においては有益」というのはダイバーシティに富んだ捉え方でめっちゃいい話である。全人類プレイして。
さて、いい話で終われば良かったのだが、どうしても気になってしまう点がある。ずばり「1人の身体に生まれつき複数の人格があるという状況がメジャーではないにせよ存在し、それが当たり前のように捉えられている」という点である。
現実の世界での「多重人格」の扱いを確認しよう。一般的に「多重人格」と現在呼ばれているものは、すでに1994年の精神医学(DSM-Ⅳ)において「解離性同一障害」とまったく違う表現に変更されている。人格が複数あるという点が取り沙汰されがちだが、主症状は「解離」である。
解離とは、「つらい体験を自分から切り離そうとするために起こる一種の防衛反応」とされている(厚生労働省, 2011)つまり、強いストレスを緩和して心理的健康を保つメカニズムである。キコニアにおける「多重人格」は解離性パーソナリティにより生じる多重人格と明らかにメカニズムが異なる。なぜなら主人格が他の人格のことを知っていたら、ストレスの切り離しは行えない。そもそも強いストレスにより生じるものであり、生まれた時から人格が複数あるという状況自体が不審極まりない。
先天性パラレルプロセッサーについて説明したジェイデンは「本人を傷つけるから多重人格と呼ばない」程度の認識のようだが、従来多重人格と称されてきたものとあまりに違うから別名で呼ばれているというほうが正しいだろう。
ではどういう現象なのか。詳しい点は今後のエピソードを待つ必要があるように思うが、この問いの答えは「都雄が本当に本人の申告通りに先天性パラレルプロセッサーなのか」によって変わってくる。
本当であると仮定すると、本作の「人格」はアカウントの切り替えのようなもので、嗜好など根本的な部分は変わらない可能性が非常に高い。この点については次の記事で掘り下げる。
引用:
厚生労働省(2011)知ることからはじめようみんなのメンタルヘルスhttps://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_dissociation.html