ちとせあめ

なごみ(@higuumi753)07th expansion様の作品について、長文になりがちな考察をメインにアップしていきます。新規情報の追加や新たな視点からの考察の結果記事同士が多少矛盾することもあるかと思いますがお目溢し頂ければ幸いです。

『地獄の底をのぞいたら』あとがき

※この記事は『地獄の底をのぞいたら』のあとがきのような位置づけの記事です。

感情をなるべく排して客観的に記述した本編に対して、完全に感情だけで書いています。ご注意ください。

これは特定の誰かの説を貶めるものではなく、自分自身の「第一印象」に対する問答であるため、そのように捉えて頂ければ幸いです。

 

本書をご覧頂いた方には、私がジェイデンのことを『キコニア』における重要人物であると捉えていることがお分かりいただけたことかと思う。

「都雄の相棒を自称するこの男性はどうやら『ひぐらし』でいう竜宮レナや『うみねこ』でいうベアトリーチェの後継である」というロジックを提唱するのはかなり度胸のいることだった。

というか自分自身でも直感だけだとなかなか信じがたく、最初はヘラヘラ笑ってた。

自分がなぜ「ジェイデンはレナやベアトの後継として捉えたほうがしっくりくる」という解釈を受け入れるまでに手間取り、そして受け入れざるを得ないと考えたのか、漠然としていた理由をあとがき代わりに書き出してみた。

 

Q. え、ひぐらしのレナとうみねこのベアトって主人公の相棒じゃないんですか?
A. とんでもない! 確かにいろいろあったけど最終的にはもちろん性別を問わず頼れる相棒関係だよ!

……。 
正直コレに気付いた瞬間が一番辛かったんだけど、その通り、第二主人公は第一主人公の相棒でもあった
今までだって散々第二主人公の鉄火場でのたくましさには助けられて来たはずなのに!?

 

非常に厳しいものを感じるが、次の疑惑にも向き合いたい。

Q. 都雄ちゃんはこんなに可愛らしい外見なんだからヒロインに決まってるじゃないか! 主人公というにしては挙動が女々しすぎるし頼りないよ。
A. えっ、出題編の圭一も戦人も惨劇に巻き込まれた結果幼女に泣きついてるけど……。

……。

そういえばそうだった。 

なく頃に主人公って罰ゲームと称して際どい格好をさせられたり、ゲームに負けて身ぐるみ剥がされて全裸で引きずり回されたりするようなやつらだった。

「圭一とか戦人がヒロインって感じだよね(笑)」と散々今まで言ってたはずなのである。

 

Q. ジェイデン、レナとベアトみたいなシリアスな悩みを抱えているキャラクターには見えないですよ?

A. シリアスな悩み……、っていやいや、キコニアはまだPhase1なんだから比較すべきは第一印象では? 圭一はレナのことを「能天気でほんわかしたやつ」だと思ってた戦人はベアトのことを「楽しみで人を殺す残虐非道な魔女」だと思ってたつまり今までだって第一印象でナイーブな面は見えてなかったよ? そしてPhase1のジェイデン、見事に都雄から「大して悩みのなさそうなやつ」とズバッと言われてるけど誰も見てないところでこっそり凹んだり悩んだりしてるシーン多いね? つまり「ぱっと見は悩んでるように見えないが大いに悩んでる」をちゃんと満たしてる。

 

Q. だけどレナとベアトって要するに「ヒロイン」でしょ? 身体の性別が女性じゃないとさすがにヒロイン的な役割はできないんじゃない? きっと竜騎士07先生はヘテロ恋愛しかやらないでしょ。
A. これ、EP6で「安田の人格の全員の恋が叶うゲーム盤」作ったバトラ卿の前でも同じこと言えます? 私にはとても言えない。EP8のベルンみたいにぶん殴られそう。ていうか、Phase1で既に結婚だのデートだのなんだのの話題を出しているところをみると、「敵です!」と名乗って出てきたベアトとかよりもむしろコトは分かりやすいまである。

 

Q. ジェイデンは「女好き」では?
A. すごい残酷な事実なんだけど、「可愛い女の子をみて喜ぶ」というだけだとレナも該当するしベアトだって部下にあんなきわどい格好させたりフラウロスを「おっさんだとつまんない可愛い女の子がいい!」って女体化してるわけで、正直「可愛い女の子が好き」というだけで「男性である主人公に恋愛感情を抱かない」という理由には全然至らないのでは……?

 

 

Q. っていうかレナもベアトも自力でいろんなことが出来ちゃうある種の天才だったような……?
A. ……。…………。

 

Q. 今までの第二主人公ってそういえば余計なこと閃いてしまうタイプではなかった?
A. あ~地球を侵略するエイリアンの存在信じて学校に立てこもったりとか、命懸けのリアル謎解きミステリー仕掛けて島に立てこもったりしてたな……。

 

…………。

否定の要素が全部潰れてしまった。

 

もうさ〜〜〜〜〜竜ちゃんさ〜〜〜〜〜!?

 

確かにおかしいとは思った。「ちょっと鈍感な男」と「人格がたくさんある肉体性別不詳のコ」のコンビなんて明らかに『うみねこのなく頃に』の主人公コンビ・右代宮戦人ベアトリーチェに寄せすぎてるとは思った。
「竜ちゃん先生、キャラクターの引き出しいっぱいあるはずなのになんか妙に似てるな……」とは思った。
なんなら「もしかしてうみねこ好きの人へのファンサかな(笑)」なんてとんでもない驕りも抱いた。読者に寄せてくるタイプの作家じゃないのにな。
まさか「前作主人公カップルの上っ面の属性をデコイに使う」なんてことやる!?
そんなことやる!?
……。
竜騎士07先生なら……やりかねませんな。

 

これは間違いなく同人作品だからこそできる構造だ。
商業作品で「今作の主人公カップルの造形、前作の大人気主人公カップルの上っ面のイメージだけ借りてきて作りますね! 内面的にはむしろ逆ですけど(笑)」なんてやったら、編集さんから絶対止められる。
女性向けBLレーベルで「A×Bだと思った? B×Aでした!」なんてやったらど炎上モノである。
でも、竜騎士07という作家は、登場人物を単なる「お決まりのキャラ」として描写することのない人物である。
「同い年なのに家事が得意で家庭的なあの娘」は家庭で母親役をやらざるをえなかった人物。
「幼馴染のかわいいメイドさん」はそう強いられてしまった特殊な出生の人物。
ここに、「明るい・アメリカ人・男性だからって全然悩まないのは不自然」という例が加わったのである。Phase1読み返したらギュンヒルドがまったく悩まないジェイデンは人間的に不自然だ、と的確に指摘していたのでちょっと泣いた。

ちなみに竜騎士07ベアトリーチェの尊厳や作品のメッセージを守るために、批判を覚悟のうえで「猫箱を閉ざす」ことを決めた作家である。
我々がどんな反応をしようと、書こうと思ったら絶対に書き切るに違いない。

そもそもひぐらしの時点で「俺のことを好きな双子の可愛い姉妹」みたいなのを出しといて「と思いきや片方は別の男が好きです」なんてことをしてくるので、心底一般ウケよりも書きたいことを書く人だよなあと思う。今でこそ園崎詩音は一途な女として受け入れられてファンが多いけど、きっと当時はショックを受けた人もそこそこに居たんじゃなかろうか……。

 

つまり要約すると、

「第二主人公の性別が男性であるというだけ」で「虚無から湧いてきた謎の相棒ポジションだと誤認させられた」

というのがことの次第であり、私の中にはちゃんと偏見が存在していたのだ。

 

ついでにこれは懺悔なのだが、安田紗代の性別が女性であると断定する説に対して私はすごくモヤっとしたものを抱えてた。

だって紗代が女性で間違いないと断言するのは、右代宮理御の存在や「恋をできない身体」との発言、すべて理解した戦人がゼパルとフルフルを対等な存在として召喚したことなんかをまるっと無視した見解だと思ってたからだ。

なのにいざ第二主人公に男性を据えられたらあっさり思っちゃったのだ。

「今回の『男の子』はニブいなりに頑張ってんじゃん!」

と。

もう、すげ〜〜〜〜〜悔しい!!!

 

キコニアのなく頃に、自分の中に存在する偏見と向き合わされる恐ろしい怪作だよ……怖い……。