ちとせあめ

なごみ(@higuumi753)07th expansion様の作品について、長文になりがちな考察をメインにアップしていきます。新規情報の追加や新たな視点からの考察の結果記事同士が多少矛盾することもあるかと思いますがお目溢し頂ければ幸いです。

うみねこ:Last noteの難易度は「高め」?

※以下の記事はキコニアのなく頃にPhase1、うみねこLast noteのネタバレを大いに含みます。また、さまざまな「前提」を積み重ねていることからのちのちめちゃくちゃな黒歴史と化す必要があります。ご注意ください。

 

Last note of the golden witch、集大成に相応しい素晴らしいシナリオだった。
戦人の魔女への想い、ベアトの変わらぬ可愛さ、縁寿と明日夢とのやり取り。明日夢の子供たちを想う気持ち。素晴らしい作品だった。

そんな素晴らしいシナリオについて、ある疑念を抱きつつある。それはLast noteが「いい話」ではなく「めちゃめちゃいい話」だったのではないかという疑念である。

Last noteの出題の文章を確認したい。

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Last noteのシナリオをプレイして「難易度が高いなあ」と思ったかた、どれくらいいるだろうか? 寧ろうみねこ随一くらいにわかりやすいEPだったのではないだろうか。というか、作中内にて解答がスッパリと明示されているのに「難易度設定」があるのは不可解ではないだろうか?

それに「貴方に敬意を表し」とはどういうことだろうか? まるでプレイヤーの行動次第で難易度が変わるような表現である

本記事では、「『キコニアのなく頃に』Phase1のGMの代わりにメッセージを代弁するため、4人で共犯者になっていた」という説を提唱する。

「他の作品のキャラクターのために行動する動機」など普通はない。ところが、この4人の性格や置かれている環境を鑑みると、キコニアPhase1のGM……ジェイデンの代わりにメッセージを代弁しに来かねないキャラなのである。

ジェイデンについて掘り下げたこと下記のようなことが分かった。

ほぼ確定: 感情がシャレにならないレベルで鈍感であるため自分の自然な身体反応や行動を手がかりにして感情を思考で補足して判断している。肉親のいないAOUにおいて天才は同輩から妬まれ孤独になりがち。実際ボッチ、コミュ障とも言っている他人の感情にも自分の感情にも鈍感にならないとやっていけない。兄弟にさえフィルターを使う程度に鈍感な自覚もある。だからこそ大事な相手である都雄に向ける感情が自分でもよくわからなくて一般論や他人の意見に頼ってしまう。(https://nagomi753wtc.hatenablog.com/entry/2020/02/12/113045

暫定: 「都雄の望んでた世界」を生んでいる。おそらく現世において都雄が身体の自由がきかない状態に陥り、尊厳が蹂躙される前の《地獄》の時間を永遠に繰り返す引き延ばし大作戦実行中。「駒の喜怒哀楽が観たい! プレイヤーの席は与えない!」(https://nagomi753wtc.hatenablog.com/entry/2019/12/28/103757

そもそも本記事作成者が彼について「つまり今のGM?」と疑念を抱いたのは、キコニアの作中に何度も出てくる《地獄》というフレーズが気になり調べたところ千年タイムカプセルの構造が『神曲』の「地獄編」に酷似していたこと、「望んだ世界云々」と言っていたことが発端である。人物像を真剣に掘り下げたのはその後であった。

この『神曲』、キリスト教的世界観の概説であるとともに、報われ難き恋心を扱った話でもある。前作「うみねこのなく頃に」においては「GMベアトリーチェが待っている《煉獄》」として扱われていた。だからスルッと「ああ、じゃあ今回はつまり……」と着想してしまった。無論、両作品は別モノである。別モノであるが、どうも考えれば考えるほど「Last note」では、わざとジェイデンの行動やら動機と符合する要素をメッセージとして練り込んでいたような気がしてならない

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2人掛けのソファ→「対局」をメインにしているうみねこでは使い道が思いつかない。漫画版などでソファが出てきたこと自体はあっても、ここまで2人掛け、という点が強調されたことなどなかったように思う。一方キコニアのゲーム盤は「プレイヤーとして対戦するためでなく2人で眺めるためのゲーム盤」である。向き合わずに同じ方向を眺めるゲーム盤なら「2人掛けのソファ」は適している。

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忘却は尊厳の冒涜→社会全体が主人公達の存在を忘却して尊厳を蹂躙しようとしている

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・カケラを考えるだけ無駄とか言うな!→動機不明な魔女について「魔女だからこいつはなんらかのしっかりした理由に基づいているはずだ!」という説明より、煉獄に焼かれながら不器用にメッセージを込めていた自分のところのGMとの対応で地獄で凍えながら不器用すぎてもはや自らの想いにも気付けないゆえにメッセージを発信できない後輩GMを想定して弁解しているほうが正直しっくり来ないだろうか? それにピースは特に寂しがりとも拙いとも言いがたい。
・古戸ヱリカとピースの「雰囲気が似ているが本当に行動パターンは同じだろうか?」→ジェイデンの鈍感さ、観測範囲内のけっこうな率で「童貞だから女心わからないムーヴ」と誤認されているし本人自身も言っていた。しかし本質的に異なるものである(もしかしたら都雄の「人格が複数」についても疑いを持ってかまわないということのGOサイン?)
・OPにて10年間ほど同じだったはずの「赤」と「青」のイメージカラーを替えていたこと(うみねこの夫妻さえ統一すれば,歴代「第一主人公は全員赤」「第二主人公は全員青」に揃う……)
la Divina Commedia神曲)、エンピレオ(『神曲』の至高天)
立ち絵にて「昭和が舞台であるうみねこにおいてさえ本質的な問題も先天的な肉体のことではなかった」ことの示唆→これはベアトにとってはハラワタを晒すレベルで大変なことだったはず

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・本人達いわくずっと暇だったはずなのにあいさつを考えていない戦人とベアト、ヱリカの一言→2人してゲーム盤作成にてんやわんやだった? ヱリカは「互いにメッセージを送り合うGMとしての戦人とベアト」を身をもって知っている人物である。その彼女が「相変わらず」というのなら、やはり「last noteも彼らがGM」ということの示唆だったのではないだろうか。

ベルンカステルの最後のセリフ「なきそうなのよ」→最後の最後にてキコニアのゲーム盤の存在を「認識すること」はうみねこのゲーム盤からも可能であり、以上の「解釈」も十分成立しうるものと思われる

 

右代宮戦人は非常に共感的な性格であり、優秀なGMである妻ベアトリーチェのことをも「素直にメッセージを伝えられない不器用なやつ」呼ばわりしている。妻とのんびり黄金郷ライフを送ってたところに歴代イチの不器用ぶりを見せるGMがもはや自分自身の気持ちにさえ気付けずメッセージが送れないまま《地獄》の底で凍死しそうになっていたら、どのような印象を受けるだろう。黙って見てられないんじゃないだろうか?

ベアトは、もちろん恋の苦しみや孤独や誰かに理解してほしいという気持ちを骨身に染みて知っているはずである。

縁寿もまた、孤独に苛まれながらも憎しみの連鎖を断ち切り「福音の家」にて身寄りのない子供たちに幸せの魔法を授けている人物である。遥か遠い未来の全くつながりのない人物であろうとも、その苦しみに寄り添えるはずなのだ。

そして今回のゲストが明日夢であるという意義もまた深いものであると感じる。明日夢は、血の繋がらない憎い女の子供であっても実子のように愛情を傾けられる者である。

うみねこ」においては共犯者であれば「信用できない語り手」になることができる。Last note、「キコニアを想定した場合は4人が共犯者になってメッセージを代弁したゲーム盤」であり、「うみねこのみ読んだ場合は難易度のないゲーム盤」となるのではないだろうか?

Last noteはそのまま受け取っても、素晴らしいシナリオだ。しかし「血の繋がらない相手でも大事に想い未来に繋げようとする明日夢と縁寿という二人の協力を得て、不器用なGMのために戦人とベアトが作ったゲーム盤」として受け取ることもできそうである、というのが現在の見解である。

これが並の作品であれば、「せっかく集大成となる新シナリオなのに他作品の紹介を!?」と不平が生じてしまいそうなところかもしれない。ところがうみねこという作品は並の作品ではない。むしろ秘められたメッセージがあるほうが爽快感さえ感じてしまう本記事作成者は「やられた! あいつらめー! まだまだ現役だな!」と愉快さを感じてしまった。「遠い未来を生きる若者の身を案じ、自分たちは航海者になれないからとおせっかいにもゲーム盤を作ってメッセージを代弁する」というのはむしろ非常に「彼ららしい」のである。


ところで、ジェイデンがかなり特徴的な思考をしていて困ってそうな人物であることは分かった一方、彼を理解したところで事件の真相はビックリするくらいなにもわからない。「そいつを疑うな! でも俺達も何が起こってるのかどうしたらいいのかは分からない!」と言われた気分である。そんなところも、ホワイダニットを重視する彼ららしいといえばらしいのだが……。