ちとせあめ

なごみ(@higuumi753)07th expansion様の作品について、長文になりがちな考察をメインにアップしていきます。新規情報の追加や新たな視点からの考察の結果記事同士が多少矛盾することもあるかと思いますがお目溢し頂ければ幸いです。

フラグメント12「兄弟の日」

フラグメント12「兄弟の日」。

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好きなフラグメントとして挙げられることが最も多いフラグメントである。

かわいらしい都雄。うっかりミスをちゃんと認めて謝るジェイデン。優しく二人の仲を取り持ってくれるギュンヒルド。本編の<地獄>さが嘘のように読後感は良好な内容である。

しかしこのフラグメント、よくよく状況を考えてみると、非常に極悪極まりない内容なのである。

 

都雄視点では、兄弟の日は文句なしのハッピーエンドだ。
都雄は怒らせても自業自得なことをしてしまった。そんなジェイデンに「ただのうっかりミスだった、申し訳ない」と言われて都雄はさぞ安心して眠れたことだろう。

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……。

ジェイデン視点では?
「都雄はメールにマメなタイプ」とジェイデンは認識している。そしてジェイデンは、「自分のメールを読んだ都雄は怒るだろうと予測していた」ジェイデンは、都雄の返事を待ってどのような返事を返すか悩んでいた。ご丁寧にしっかりと明言されているが、この時の時刻は「就寝にはだいぶ早い時間」である。

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ジェイデンは、間違いなく「都雄が返事をくれないのは自分に対して非常に怒っているから既読スルーしている」と解釈するであろう。

懇切丁寧なことに、都雄が返事をくれなかった時にジェイデンが「怒っている」と解釈するシーンも本編中に存在する

 

相手が返事をくれないことを「怒ってる」と誤解する、という構図自体は都雄の直前まで置かれていた状況と瓜二つ。それを考えると一見、ただジェイデンが都雄におこなった失態が返ってきただけのようにも見える。

しかし、そもそも作中で明言されている通り、都雄が寂しいからと素直に言えずにめんどくさいメールを送ったことがトラブルの起因である。都雄が素直に「寂しい!」と言っていれば、「自分が怒らせてしまった」という誤解はせず済んだ
一方、ジェイデンは、ギュンヒルドの提案通りに嘘をついていれば、都雄はフォローのメールを送ってきたはずであり、「自分が怒らせてしまった」という誤解はせず済んだ

誠実に行動した側が寂しい思いをしたまま終わる、という最悪の状況である。

都雄とジェイデンが被保護者と保護者の関係ならよいのだが。都雄が念入りに主張していた通り、二人は対等な相棒であるはずだ。それなら、片方だけが著しい負担をかけている現状は、到底看過されるべきではない。

 

上記の状況だけでも、兄弟の日は極めて悪質な内容である。しかし、更に最悪なことに、兄弟の日は、都雄だけでなくジェイデンにも元々かなり負担がかかっている可能性が高いのである。

まず前提として、竜騎士07氏は人間関係や心理の描写がことこまかな作風である。なく頃にシリーズでは言うに及ばず、妖怪が存在する「彼岸花」でさえある日突然お伽話のような出来事が起きて何もかもが一気に好転した、などということはない。

そう考えてみると、ジェイデンの兄弟関係は異様なのだ。

  • “一部の兄弟たちと旧交を温めるようになったのは最近だ。それでも疎遠になってしまった兄弟は大勢いる……。ジェイデンは時折、超天才と自惚れて、兄弟たちとの関係を疎かにしていたことを後悔するのだ……。”(キコニアPhase 1第9章『モンスターパーティ』)

もともと、能力主義AOUにおいて抜きんでた天才が同輩や先輩からやっかみを受けて孤立するのは、よほど器用でない限り回避不能なことであろう(右代宮家使用人の中で一人だけ「特別扱い」をされていた安田紗代が先輩達から冷たくされてしまい孤独になった構造とも類似している)。それを超えるようなジェイデン側からの大きな歩み寄りがあったのであろうことは予想される。

ジェイデンのおこなっている歩み寄りとは、具体的にはどのようなものだろうか?
兄弟の日のジェイデンは、 なぜ昔は仲が良くなかった兄弟とわざわざリアルで直接会っていたのだろうか。本当に彼が幹事を務めていたのは今回だけなのだろうか? ジェイデンは兄弟の日に毎月幹事役をやり、飲食代を負担していてもおかしくないのではないだろうか。何しろ、幼少期は抜きんでた天才ではなかったはずのギュンヒルドさえ、兄弟から金づる扱いされているのだから

  • “【マスター】「他のみんなは、ギュンちゃんのお金のこと、……成功したヤツは奢ってくれて当然、くらいにしか思ってなかった……」”(キコニアPhase 1第9章『モンスターパーティ』)

事実関係がどのようなものかは不明だが、いずれにせよ、ジェイデンにとって兄弟の日は「楽しいだけ」の日ではない可能性が高い。そのせいで、常日頃から動向を気にしている都雄の変調に一切気づくことができなかった、と考えると非常に筋が通る。

 

このようにしっかりと関係性が描写された以上、単発の単なる小話として終わるとは考え難い。二人の関係性は、都雄がジェイデンに対して問題のある行動をしている時に、都雄の「可愛さ」でうやむやにされている場面が多いのではないだろうか。そういった疑問を強く持ちながら読み返してみると、確かに都雄はジェイデンに対してさまざまな問題行動を起こしている。

CPPについての疑い(CPPとは結局何なのか? - ちとせあめ (hatenablog.com))はあくまで疑いであるため、確かなことは言えないにしろ。以下は、確実に問題のある発言である。

  • “【都雄】「うっせ。お前とはもう二度とバトルしてやんねー。今度からは壁に俺の写真でも貼ってひとりでやれ」”(第1章『国際平和軍旗祭』)

  • "【都雄】「こんな馬鹿野郎、人間扱いしなくていいんだよッ」"(第6章『人格混同の人権侵害』)

  • “【都雄】「ちぇ。俺の相棒の適性、お前はCくらいだからな」” (第9章『モンスターパーティ』)

  • “【都雄】「その手があったな。俺もジェイデンがウザい時はブロックしてみるか」”(第25章『預言の刻』)

……。

都雄ちゃん、問題発言多すぎない? まだ1話目だけど?

ここに、「フォローしようとしたジェイデンに暴力を振るって黙らせる」という行動なども入る

更に悪いことに、デレの部分は別人格だと言ってしまったせいでジェイデン認識の都雄はツンデレではなく上記のツンのみである可能性がある。

 

以上から考えると、「都雄とジェイデンの関係性は安定しているようでいて、その実おおいにジェイデン側に負荷がかかっている。そのうえジェイデンはにこやかに振る舞っているだけで決して安定感のある人物ではない」というのが、二人の関係性に潜んでいる根本的な問題と考えられる。